
(C)2017 TESSALIT PRODUCTIONS - ROUGE INTERNATIONAL - EZEKIEL FILMS - SCOPE PICTURES - DOURI FILMS PHOTO(c)TESSALIT PRODUCTIONS - ROUGE INTERNATIONAL
DVD \4,743(税抜)2019/3/6・ブルーレイ&DVDセット発売:ソニーピクチャーズエンタテインメント
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2017年製作 レバノン・仏 (113 min)
監督:ジアド・ドゥエイリ
出演者:
アデル・カラム
リタ・ハーエク
カメル・エル=バシャ
クリスティーン・シュウェイリー
、カミール・サラーメ
、ディアマンド・アブ・アブード
、タラール・アル=ジュルディー
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あらすじ:レバノンの首都ベイルート。 住宅街で違法建築の補修作業を行っていたパレスチナ難民の現場監督ヤーセル・サラーメと、補修工事をされたキリスト教系政党の熱心な信者であるレバノン人男性トニー・ハンナの間でトラブルが発生。 ちょっとした口論は暴力沙汰から裁判となり、やがて国を2分する騒乱へと発展してゆく…。 法廷ドラマ。
ベネチア国際映画祭最優秀男優賞、アカデミー賞外国語映画賞ノミネート、他多数受賞
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中東でキリスト教徒が一番多く住んでいると言われるレバノン。 国会議員数は各宗派の人口数に応じて定められており、トニーが支持するキリスト教カトリックのマロン派は34人、ヤーセルが属するイスラム教スンナ派は27人、イスラム教シーア派は27人です。 争いの原因が単なる工事トラブルでないのは明らかで、レバノン内戦(1975~1990)等の紛争の歴史が根本にあります。 ふとした拍子に本音が出てしまう差別意識と未来への希望を描く、社会派ヒューマンドラマです。
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<スタッフ厳選 超お薦め映画作品!>
★★★★
大河ドラマの「西郷どん」が、ようやく革命家へと変貌し始めた。かつては戊辰戦争の憎しみが残り、薩摩(鹿児島:明治政府側)と会津(福島:幕府側)の人は、お互いの方言を毛嫌いし、結婚もできなかったという昔話まであった。だが明治維新とその後の西南戦争以来、日本で内戦は起こっていない。しかしたとえば、2~30年前まで殺し合っていた民族同士が、隣近所に住んでいたらどうだろう?
中東レバノンの首都ベイルート。住宅街で補修作業を行っていたパレスチナ難民の現場監督男性ヤーセル・サラーメ(カメル・エル=バシャ)と、地元住民でキリスト教系政党の熱心な信者であるレバノン人男性トニー・ハンナ(アデル・カラム)の間で、些細なトラブルが起こった。
第二次世界大戦で大変な目に遭ったユダヤ人は世界各国から同情され、イスラエルが建国(1948年)されたが、そこに住んでいたアラブ人は追い出される形となりパレスチナ難民となった。中東では常に紛争が起こっており、原因を遡れば紀元前まで、近代ならヨーロッパの植民地時代や第二次世界大戦に繋がり複雑極まりなく、詳細な感情は理解し難い。現場監督ヤーセルは、レバノン(1941年建国)へ逃れて来たイスラム教徒のパレスチナ難民。レバノンには中東でキリスト教徒が一番多く住んでいると言われており、特にトニーたちが支持するキリスト教系の政治家は、異教徒の難民らを追い出したいらしく熱弁を奮っている。レバノン内戦(1975~1990)では、パレスチナ難民とキリスト教徒の間でも抗争があった。内戦が終わっても宗教と民族による対立は現在でも続いているからこそ、トニーはヤーセルを見ただけで嫌になったのだ。
いい歳をした男同士のちょっとした口論は暴力沙汰から裁判となり、やがて国を二分する騒乱へと発展してゆく。こんな大事になるとは思っても見なかったが、裁判で白黒つけねばならず引っ込みがつかなくなってしまった。常識的に見て加害者であるはずのパレスチナ難民ヤーセルに同情が集まり、被害者のレバノン人トニーが難民に理解のない横暴な男に見えてしまう。この物語では、被害者と加害者の立ち位置が何度も入れ替わるところが味噌になる。
世代や年齢、時には性別でも見方が変わる。ヤーセルとトニー、そして年配のトニー側弁護士ワハビー(カミール・サラーメ)は、直接的に内戦を体験しているだけに過去へのこだわりが強く、トニーの妊娠中の若い妻シリーン(リタ・ハーエク)と、ヤーセル側の若き人権派女性弁護士ナディーン(ディヤマン・アブー・アッブード)は、できればお互い仲良くやっていきたいと思っている。世界各地の紛争地域でも体験世代と端境期の世代では感覚がかなり違うはずだが、次世代がどう感じるかは教育次第。トニーは近々生まれ来る我が子に、この裁判のことを将来どう説明するのだろうか。
監督ジアド・ドゥエイリは1963年生まれの、レバノン内戦を経験したレバノン人。 これからこのような映画がどんどん世界へ出て行き、自分たち当事者と次世代へ、未来への思いを伝えていくことになるのだろう。誰が悪いとも正しいとも、被害者とも加害者とも言えなくなってしまう社会派ヒューマンドラマ。お薦め作品だ。
(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)
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