エイブのキッチンストーリー : 象のロケット≪映画DVD総合ナビゲーター≫

エイブのキッチンストーリー

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原題：ABE

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2019年製作米・ブラジル　（85 min）

監督：フェルナンド・グロスタイン・アンドラーデ
出演者：
ノア・シュナップ　アーニャは、きっと来る
セウ・ジョルジ　シティ・オブ・ゴッド　ペレ伝説の誕生
ダグマーラ・ドミンスク　モンテ・クリスト　巌窟王　プリシラ　エヴァの告白

アリアン・モーイエド、マーク・マーゴリス、セーラム・マーフィー、トム・マーデロシアン

あらすじ：アメリカ、ニューヨーク・ブルックリン。　12歳の少年エイブの両親は無宗教だが、母方はイスラエル系（ユダヤ教徒）で父方はパレスチナ系（イスラム教徒）。　一家は文化や宗教の違いで対立する両家の親族に悩まされていた。　そんな時、料理が大好きなエイブは世界各地の味を掛け合わせて「フュージョン料理」を作るブラジル人シェフのチコと出会う…。　ヒューマンドラマ。　PG-12

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両家の会話はいつも平行線。　ああ、どうしてこんな面倒な家庭に生まれてしまったのでしょう！　エイブが料理に込めた想いは、果たして大人たちの心に届くでしょうか…？　世界的な民族・宗教対立問題を子ども目線で描く、社会派ドラマです。

＜スタッフ厳選超お薦め映画作品！＞
★★★★
育った環境が違い過ぎる相手との結婚は、結局うまくいかないとよく言われる。人種や国籍や（国によっては存在する）階級などは生まれながらの区分だが、政治思想や宗教、食習慣などは後付けで変更が可能だ。こだわりがない方が妥協して転向するか、互いのアイデンティティを尊重し共存するか、全てのこだわりを捨て去るかの選択になる。前もって話し合い、結婚前にここまでクリアしておけば丸く収まるかというと、そうでもない…というのが本作。

主人公は、ニューヨークに住んでいる料理好きの12歳の少年エイブ（ノア・シュナップ）。彼の母（ダグマーラ・ドミンスク）はイスラエル系（ユダヤ教徒）で、父（アリアン・モーイエド）はパレスチナ系（ムスリム=イスラム教徒）だった。祖父母はそれぞれ、イスラエルとパレスチナからアメリカへ渡って来た移民である。両国は対立し今も紛争が続いているので、父母の結婚は大反対されたが結局結ばれてエイブが誕生した。だが両家の親族が顔を合わせるたびに嫌味合戦が始まるので、エイブはウンザリしている。グレてもおかしくないのに、素直で愛らしい少年だ。

エイブの父は、結婚後は一応無宗教。後々のトラブルも覚悟の上で結婚したはずの両親も、かなり疲れてきている。両家が直接殺し合ったわけではないし米国生活も長いのだが、ユダヤ人とパレスチナ人が「友人」ならともかく「家族」になるのは、やはり難しいのだろう。どちらの祖父母も息子・娘のことは諦めたものの、孫エイブには自分の方の宗教を選んで欲しいと切に願っている。信仰心の篤い者同士が罵り合うのは、誠に不思議なのだが…。

エイブの感心なところは、祖父母が重んじているユダヤ教とイスラム教の両方を正しく理解しようとしているところだ。ルーツを知ることは大事だが、将来はいずれかの信者となるか無宗教かの選択をせねばならず、誰かを悲しませることになるだろう。そんな先のことまではまだ頭が回らないが、大好きなおじいちゃん・おばあちゃんたちに何とか仲良くなってもらいたい。得意の料理でそれが出来たら、とエイブは考えた。

そんなエイブの料理の師匠は、ブラジル人シェフのチコ（セウ・ジョルジ）。チコが得意とする世界各地の味を掛け合わせた「フュージョン料理」をお手本に、エイブはユダヤとパレスチナ両方の祖国の味を生かした料理を作れないかと思いを巡らせる。チコはエイブの第二の父親的存在で、仕事の面では厳しく指導する。この映画はいろいろな面でエイブを子ども扱いせず、安易に流さず、甘やかさない。12歳の心優しき少年は、大人の世界の複雑さと厳しさを知る。何とか乗り越えていって欲しいと、願わずにはいられない。

さて、エイブが心を込めて作った料理が食卓に並べられる。家族思いの少年の願いは、大人たちの心に届くのだろうか…？　一筋縄ではいかないキッチンストーリー。お薦め作品だ。

（象のロケット映画・ビデオ部　並木）

＜作品評価システム＞と＜高度マッチングシステム＞