国宝 : 象のロケット≪映画DVD総合ナビゲーター≫

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6月6日より全国東宝系公開中

(C)吉田修一／朝日新聞出版　(c)2025映画「国宝」製作委員会
配給：東宝

2025年製作日　（175 min）

監督：李相日　フラガール　流浪の月　 69 　許されざる者
出演者：
吉沢亮　ババンババンバンバンパイア公　青くて痛くて脆い　 AWAKE 　ぼくが生きてる、ふたつの世界
横浜流星　線は、僕を描く　正体　アキラとあきら　流浪の月
高畑充希　怪物　キャラクター　ヲタクに恋は難しい　浜の朝日の嘘つきどもと

寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛

あらすじ：任侠の一門に生まれた少年・喜久雄は、抗争によって父を亡くした後、上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎に引き取られ、歌舞伎の世界へ飛び込む。　そこには、半二郎の実子で、生まれながらに将来を約束された御曹司・俊介がいた。　正反対の血筋を受け継ぎ、生い立ちも才能も異なる二人は、ライバルとして互いに高め合い、芸に青春を捧げていく…。　ヒューマンドラマ。　≪ただひたすら　共に夢を追いかけた―≫

原作：吉田修一　脚本：奥寺佐渡子

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必ずしも芸の力だけでは生き残れない古典芸能の世界。　極道から梨園へ飛び込んだ少年が、全てを捨て、ひたすら芸の頂点を追い求める50年を描きます。　歌舞伎の演目のような大がかりな見せ場に富む、波乱万丈のストーリーです。

＜スタッフ厳選超お薦め映画作品！＞
★★★★★

本作の原作「国宝」は、（上）青春篇（下）花道篇の2冊に分かれた長編小説。原作者・吉田修一は、本映画の歌舞伎指導を行い吾妻千五郎役で出演もしている歌舞伎俳優・中村鴈治郎のもとで、黒衣（くろこ：舞台上で俳優の補助をする人）が着る黒装束を纏って楽屋や劇場に出入りし、3年間取材を行ったとのこと。小説は歌舞伎の演目や用語の説明が詳細で、歌舞伎を含むエンタメ業界の裏事情、役者の私生活、稽古や舞台の様子等が文面から目に浮かんでくるような情景描写で、言葉遣いも美しい。漫画家・三国史明の作画でコミック化もされ、今回は李相日監督の映画化。175分という長編でも原作を割愛し駆け足で進むしかないが、映画オリジナルのラストシーンは、原作のテーマを的確に伝えている。

さて、本作の主人公は、長崎屈指の極道一家の長男・立花喜久雄（吉沢亮）。立花組組長の父・権五郎（永瀬正敏）が殺される雪の中の血生臭い乱闘シーンからして、既に歌舞伎の大立ち回りを見ているようだ。組は解体し、中学生の喜久雄は上方歌舞伎名門の二代目花井半二郎（渡辺謙）に引き取られ、同い年の半二郎の実子・俊介（横浜流星）と一緒に、弟子として厳しく芸を仕込まれる。二人は一つ屋根の下で兄弟のように育つ一番の親友であり、女形（女性を演じる役者）としては永遠のライバル。師匠・半二郎の指導は厳しく、同年代の中高生の日常とはかけ離れた青春時代を送る。

梨園（歌舞伎役者一族）の御曹司である俊介と、一般家庭（極道だが）出身の喜久雄とでは、同等の実力があっても、役者としてのスタートラインも、その後の役付きの出世にも大きな差が出ると言われていた。幸いなことに、喜久雄は花井東一郎として、俊介は花井半弥として、「二人道成寺」の白拍子の花子をコンビで演じ一躍若手スターとなるが、その後それぞれ波乱万丈の役者人生を歩む。

短い期間でも入念な準備をして撮影に臨んだようで、共に大河ドラマの主役に抜擢された若手俳優の吉沢亮と横浜流星は、女形の歌舞伎役者になりきっている。映画ならではの舞台の一番の見せ場は「曾根崎心中」。知識不足の私でも、歌舞伎の演目と映画のストーリーの関係を深読みしたくなったし、歌舞伎役者と演じる俳優自身の心情が重なって見えてくるような気がした。

ところで、昨今の令和の米騒動を機に、「コメ離れ派」と、「コメ回帰派」の両方が増え、ここ数十年の食をはじめとする生活全般の欧米化に危機感を覚えている人も増えているという。外国人旅行者だって、日本独特の風景、文化、精神、食、特産物などを知りたくて訪れているはず。本作の鑑賞によって日本の伝統文化に親しみを持ち、映画好き、伝統芸能好き、読書好きが増えていくことを願う。ひたすら芸の頂点を追い求める歌舞伎役者の50年を描くヒューマンドラマ。お薦め作品だ。