シサム : 象のロケット≪映画DVD総合ナビゲーター≫

シサム

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9月13日よりTOHOシネマズ日比谷他全国公開中

(C)映画「シサム」製作委員会
配給：NAKACHIKA PICTURES

2024年製作日　（113 min）

監督：中尾浩之　劇場版タイムスクープハンター ―安土城最後の1日―
出演者：
寛一郎　ナミビアの砂漠公　せかいのおきく　 AWAKE 　心が叫びたがってるんだ。
三浦貴大　大綱引の恋　栞　監禁探偵　繕い裁つ人
和田正人　オレンジ・ランプ　 14の夜　大河への道　ルーズヴェルト・ゲーム

坂東龍汰、平野貴大、サヘル・ローズ、古川琴音

あらすじ：江戸時代前期。　現在の北海道を領有する松前藩は、先住民族アイヌとの交易を主な収入源としている。　松前藩士・高坂孝二郎は、兄・栄之助とともにその交易品を他藩に売る仕事をしていた。　交易の旅の途中、アイヌの住む蝦夷地で栄之助が使用人・善助に殺害されてしまう。　孝二郎は善助を追って森の奥深くへと向かうが、その頃、蝦夷地では和人（シサム）に対する反発と蜂起の動きが高まっていた…。　時代劇。　PG-12

脚本：尾崎将也

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アイヌの村に滞在しカルチャーショックを受けた青年が、それまでの先入観を捨て去っていきます。　知らなければ分からない、分かれば通じ合う。　理解から生まれる目覚めを描きます。

＜スタッフ厳選超お薦め映画作品！＞
★★★★

古代から瑞穂の国と言われきた日本。江戸時代は主食の米が俸禄（給料）で、大名のランク付けも石高（米の生産力）で示された。今でこそ米どころの北海道だが、寒冷地のため、明治初期に北海道稲作の父・中山久蔵が栽培に成功するまで米はほとんど育たなかった。15世紀以降に北海道に渡り本土に近い入植者が暮らす土地（和人地）を支配していた松前氏が江戸時代に藩主となってからも、米は他藩から購入するしかなく相場に左右されていた。藩の重要な資金源となったのが、北海道の大部分（蝦夷地）に点在するアイヌ民族との交易品。松前藩は本土で手に入れた米、塩、布、食器などを、アイヌの獣皮、海産物の干物などと交換し、それを他藩に売ることで実際の石高以上の利益を上げていたと言われている。

さて、本作の舞台は江戸時代前期、現在の北海道にあたる地域。松前藩士でアイヌとの交易に従事する高坂家の次男・孝二郎（寛一郎）は、初めて蝦夷地へ足を踏み入れる。しかし、旅の途中で兄・栄之助（三浦貴大）が使用人・善助（和田正人）に殺され、交易品も焼失。善助を追い森の中で負傷した孝二郎はアイヌに助けられ、しばらくマカヨコタン（アイヌの村）のリーダー・アクノ（平野貴大）の家で養生することになった。アクノの家族は娘ヤエヤムノ（佐々木ゆか）をはじめ皆親切だが、和人に反発心を抱く青年シカヌサシ（坂東龍汰）や、和人に夫を殺されたリキアンノ（サヘル・ローズ）は、警戒心を抱いている。

「蝦夷（えぞ）」というのは蔑称なので、アイヌ民族のことを「人間」という意味のアイヌ語「アイヌ」と呼ぶようにと兄・栄之助は言っていた。逆に、アイヌの青年シカヌサシは孝二郎を嫌って「和人」の蔑称「シサム」と呼んだ。アイヌは圧倒的に不利益な交易で松前藩に搾取された上に差別・虐待を受けており、その恨みから武装蜂起する集落も増えていた。＜実際に本作中の事件のモデルと思われる“シャクシャインの戦い（1669年）”や、“クナシリ・メナシの戦い（1789）”など、アイヌの蜂起事件が起こったが全て松前藩や幕府によって鎮圧された。＞　

日本にも先住民が存在していることは忘れられがちだが、北海道全域で平和に暮らしていた先住民のアイヌ民族は、侵入者である和人によって駆逐され、狩場を失ったり、それまでなかった病気を持ち込まれたりして減少していったのである。独特の文化も、差別や制限を受けて失われていった。アイヌを知ることは、“和人”としての日本人を知ることでもある。

本作ではアイヌ語が字幕付きで話され、当時の瓦のない家、和服とは違う形の色鮮やかな衣服、刺青、汁物の食事、鮭漁の様子などが再現されており興味深い。当然のことながら孝二郎はカルチャーショックを受けるが、世話になったアイヌが自分（和人）と同じ「人間」だと理解すると差別する気持ちは消え失せる。しかし、松前藩士としての立場もあるし、善助を探して兄の敵も討たなければならない。

アイヌと松前藩の関係を背景にしながらも、主題は現代にも通じる「自分と立場が異なる者」への理解と共生の模索。世の中から差別や争いが消えることはないが、少しでもその消滅を願い、まずは自分自身の心を戒めていく必要はある。世間知らずだった青年が、アイヌとの出会いによって覚醒し、人として逞しく成長していく時代劇。お薦め作品だ。

（象のロケット映画・ビデオ部　並木）

＜作品評価システム＞と＜高度マッチングシステム＞