きまじめ楽隊のぼんやり戦争 : 象のロケット≪映画DVD総合ナビゲーター≫

きまじめ楽隊のぼんやり戦争

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2020年製作日　（105 min）

監督：池田暁
出演者：
前原滉　笑いのカイブツ　栞　そばかす　岸辺露伴ルーヴルへ行く
今野浩喜　夏目アラタの結婚公　生きててよかった　ちょんまげぷりん
橋本マナミ　地獄少女　光　越年 Lovers 　Sin Clock

片桐はいり、竹中直人、石橋蓮司、嶋田久作

あらすじ：一本の川を挟んで「朝9時から夕方5時まで」規則正しく戦争をしている二つの町があった。　津平町（つひらまち）第一基地に勤務する兵隊・露木は、朝から向こう岸へ銃を放ち、昼は定食屋へ行き、帰りは煮物を買って帰る毎日を送っている。　ある日、彼は音楽隊への異動を言い渡されるが、どこへ出勤すればいいのか分からない…。　戦争ドラマ。　≪川の向こうは、とてもコワイ。らしい。≫

東京フィルメックス審査員特別賞

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判で押したような毎日を送っている津平町の兵隊さんたちは、のんびりお気楽な毎日を送っているように見えます。　向こう岸がどんなところなのか、どうして“敵”になってしまったのか、誰も何も知りません。　ずーっと昔から戦っているのに…。　独特のセリフ回しと世界観がユニークな、ブラック・コメディです。

＜スタッフ厳選超お薦め映画作品！＞
★★★★

時折、ミサイルが「落下」し、船が「衝突」し、一部が「占拠」されても、一応平和が続いている日本人にとって、「紛争」や「戦争」は遠くの国で起こっているもの。ニュースで見聞きする世界各地の戦争のことがよく分からないという方は、私を含め多いと思う。領土や資源の奪い合い、宗教や民族の対立、内戦や革命、別の国の覇権争いの影響、国内外へのアピールなど、たぶん原因は1つや2つではない。馴染みがない国の建国の歴史や、刻々と変わる国際事情まで頭に入れないと理解できなさそうだし、だからといってわざわざ調べる人は少ない。自分とは直接関係ないと思っているからだ。ならば、実際に戦争をしている国の兵士たちは、正しく理解しているのだろうか。いつから何のために戦っているのか、勝ったら負けたらどうなるのか？　戦わないという選択肢はないのか？　命をかけるくらいだから、当然理解しているはずだ…。

本作の主人公・露木（前原滉）は津平町（つひらまち）のきまじめな兵隊。起床ラッパのような音楽隊の行進曲で目覚め、きちんとしたスーツ姿で第一基地へ出勤し、ロッカーで制服に着替え、全員で準備体操。9時の合図と共に一本の川を挟んだ敵地・太原町（たわらまち）へ向けてひたすら銃を打ち込むのが毎日の「作業」。昼休みには前線で戦う息子の自慢話ばかりする女将（片桐はいり）の定食屋へ行き、5時のサイレンで勤務終了。夕食は自称「何でも知ってる」煮物屋（嶋田久作）のおかずをテイクアウトし、早い時刻に就寝。規則正しい公務員生活だ。トランペットの心得があるため欠員補充で音楽隊へ異動になった露木は、ある日「川向う」から聴こえてくるトランペットの音色に合わせて演奏してみた。

まず面食らうのは、ゆ～っくりとした独特のセリフ回し。誰もがぼんやりしていて、戦時下の緊張感は皆無。政権トップの町長（石橋蓮司）は、身内（清水尚弥）やその仲間（中島広稀）の犯罪には甘い。大事な質問をしても、はぐらかしているのか本当に知らないのか忘れっぽいのか、ちゃんと回答しない。太原町にどんな住民が住んでいるのか、なぜ彼らと戦っているのか、いつから敵になったのか、みんな知らないのに「川の向こうはとってもコワイところ」だと信じ込んでいる。長年の～んびり戦っていたが、「すごい（敵の？）部隊がやって来るらしい」という噂が広まり、「新しい兵器」が開発されたという。もはやどんな「情報」も信じられなくなってくる。彼らの「すごい」って、ひょっとしてクリスマスのクラッカー程度なのでは…？

この町の人々は、何の疑問も持たずきまじめに命令に従っているうちに、ぼんやり人間になってしまったのかもしれない。架空の町のイソップ物語のようだが、明らかに現代社会を皮肉っている。上官の妻（橋本マナミ）や同僚・藤間（今野浩喜）のエピソードも、差別的発言一つで首が飛ぶ時代の今ゆえに笑ってしまった。何でも上の言う通りにしていれば、津平町の住民は一生お気楽に暮らせるのだろうか？　ユニークな世界観が新鮮な、とぼけた味わいのブラック・コメディ。お薦め作品だ。