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原題：HOLY SPIDER

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(C)Peofile Pictures/One Two Films
DVD \3,900(税抜)2023/10/4発売：ギャガ

2022年製作デンマーク・独・スウェーデン・仏　（118 min）

監督：アリ・アッバシ　ボーダー二つの世界
出演者：
メフディ・バジェスタニ
ザーラ・アミール・エブラヒミ
アラシュ・アシュティアニ

フォルザン・ジャムシドネジャド

あらすじ：イラン第2の都市・聖地マシュハドで、娼婦の連続殺人事件が発生。　「街を浄化する」という犯行声明のもと殺人を繰り返す犯人“スパイダー・キラー”は、一部の市民から英雄視されていた。　事件を覆い隠そうとする不穏な圧力と危険を顧みず、ジャーナリストの女性ラヒミは事件を追うことに…。　クライム・サスペンス。　R-15

カンヌ国際映画祭女優賞、アカデミー賞デンマーク代表、他多数受賞

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実在の殺人犯サイード（2000年～2001年に16人もの娼婦を殺害）が、彼なりの“正義感”から犯行を重ねていく様子が描かれるサスペンス・スリラーである一方、女性記者ラヒミが保守派のパワハラや男性からのセクハラを受けながらも果敢に真相を明らかにしてゆく姿、娼婦や麻薬中毒者が忌み嫌われながらも多数存在する矛盾、賛否両論に分かれる市民の意識を捉えた、社会派ドラマでもあります。

＜スタッフ厳選超お薦め映画作品！＞
★★★★★
本作の舞台はイランの聖地マシュハド。監督や出演者の顔は皆イラン人のようだし、言語もペルシャ語。ところが、製作はデンマーク・ドイツ・スウェーデン・フランスの合作で、監督アリ・アッバシはイラン生まれ（1981～）で現在はデンマーク在住、カンヌ国際映画祭最優秀女優賞を本作で受賞したザーラ・アミール・エブラヒミはイラン生まれ（1981～）でフランスへ亡命し現在はパリ在住、撮影はイランで許可が下りずヨルダンのアンマンで行われ、恐らく内容的にイランでは表立っての公開も出来ないだろう。なので、イラン映画ではなく、第95回アカデミー賞最優秀国際長編映画賞「デンマーク」代表作品である。

実話から生まれたストーリーで、殺人犯サイード・ハナエイ（1962年生：イラン）は、2000年から2001年の間に16人もの娼婦を自宅に誘い込んで殺し、遺体を布でグルグル巻きにして遺棄したことから“スパイダー・キラー”と呼ばれた。犯行動機が「街の風紀を乱す売春婦を一掃する」という、敬虔なイスラム教徒としての強すぎる“正義感”によるものだったため、一部の保守層・強硬派信者や保守系マスコミからは英雄視され、“無罪”にすべきと擁護された。それを知ったことが、監督の製作動機だという。

ヒロインは架空の人物である女性記者ラヒミ（ザーラ・アミール・エブラヒミ）。圧倒的な男社会で男性と同等に働いている彼女は、かなり自由に振る舞っているがその分苦労も多く、周囲から異端視されている。更に、自由な女性＝尻軽女だと誤解されてセクハラを受けたり、犯罪に巻き込まれたりする。そのような場合、女性の方にも非があると言われてしまうのはイランだけではない。社会進出した女性が直面する問題や、日常生活での当たり前のような女性蔑視が、本作にはかなり盛り込まれている。

犯人サイード（メフディ・バジェスタニ）は、かつてイラン・イラク戦争で戦った元志願兵。戦場体験者としてのPTSD（心的外傷後ストレス障害）がありながらも、現在は建設労働者として真面目に働き妻子を大事にする家庭人。決してゲームのように殺しを楽しんでいるようには見えない。それでも娼婦を目の前にして男としての反応を自制しきれないのが哀れだ。

被害者は全員が娼婦。イランでも男性並みに働く社会的地位の高い女性も中にはいるが、一般的に女性の地位は低い。ある日突然困窮し頼る者もない場合に売春を選んでしまうことが、世界共通の社会問題である。本編で詳しくは言及されていないが、“貧困の連鎖”も見え隠れする。忌み嫌うだけでは、娼婦や麻薬中毒者は減らない。不届き者全員を抹殺するのと、そこに至らないような対策を立てるのと、どちらが手間暇および費用がかからないのかは明らかで、「街のゴミを殺してくれた」サイードが称賛されるのも無理はない。果たして彼は逮捕されるのか？　一体どんな刑罰を受けるのか？